Clipした日: 2024-11-21T11:13:30+09:00
Clipした記事: [1円SOの実務:会計・税務の視点から読み解くestieの成功事例|畠山謙人│スタートアップの財務屋](https://note.com/kento_0724/n/na8dc963db210?sub_rt=share_pb)
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2024年11月21日 01:35 フォローしました
2023年7月の改正特定措置法(改正特措法)施行により、「1円SO」の設計がスタートアップにおける新しい報酬の選択肢として注目されています。
しかし、1円SOを導入する際には、会計処理や税務上の取り扱いにおいて複雑な論点が伴います。
この記事では、estieのSO設計を事例に具体的な実務課題とその解決策を踏まえ解説していきます。
## 目次
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## 1\. 税務における1円SOの取り扱い
**税制適格ストックオプション(税制適格SO)とは?**
1円SOを導入する場合、多くのスタートアップは**税制適格SO**として設計することで、税務上のメリットを享受しています。
税制適格SOは、付与時・権利確定時に税金が課されず、行使時点でも課税を回避できる特徴があります。
その代わり、以下のような条件を満たす必要があります。
- **無償付与であること**
- **行使価格が発行時の時価以上であること(ただし、特例で1円も可)**
- **行使期間が付与日から2年以上、かつ10年以内であること**
- **退職後の行使制限(退職後1年以内)**
**行使時の税務**
1円SOでは、行使価格が1円であるため、ほぼすべての利益がキャピタルゲイン(譲渡益)として課税されます。
税制適格SOの場合、これが給与所得としてではなく、譲渡所得として扱われるため、**20.315%の分離課税**が適用されます(通常の給与課税に比べ優遇される)。
**税務リスク**
- **退職後の課税関係**
税制適格要件を満たしていても、退職後に行使する場合、給与所得として課税されるリスクがあります。
- **行使価額の設定ミス**
1円SOの場合、行使価格が適正に設定されていない場合、税務上の否認リスクが生じる可能性があるため、十分な準備が必要です。
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## 2.1円SO導入時における会計処理の重要ポイント
**1\. 会計基準におけるSOの費用計上**
1円SOは「無償で株式を取得できる権利」を従業員に付与する仕組みであるため、その価値を費用として計上する必要があります。
具体的には、付与時点での**公正価値**を基準に、SOが権利確定する期間にわたり分割して費用化します(ストック・オプション会計基準に基づく)。
- **公正価値の算定**
1円SOの場合でも、時価との差額に基づきSOの価値を評価します。この際、ブラック・ショールズモデルなどを使用して計算されます。
- **費用計上のタイミング**
SO付与時点で、企業の負担する報酬費用として計上され、主に「株式報酬費用」としてPL(損益計算書)に反映されます。例えば、vestingがないestieの場合、付与時点で一括して費用が計上される可能性があります。
**注意点**:
- 費用計上により、スタートアップの利益が圧迫される可能性があります。このため、**株主間での理解**が非常に重要です。参考記事でも指摘されているように、費用計上の負担をどのように分配するかが議論の焦点となります。
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## 3\. estieの事例に見る成功のポイント
**①税務要件をクリアしつつ従業員のリターンを最大化**
estieでは、税制適格SOの条件を満たしつつ、行使価格1円という設計を採用することで、従業員に最大のリターンを提供しています。このような設計には、資本政策の見直しや、将来的な株価のシミュレーションを含む慎重なプランニングが求められます。
**②株主との合意形成**
SOの発行は株主の取り分を希薄化するため、株主の同意が不可欠です。estieでは、株主の理解を得た上で「M&A時の行使」や「べスティングなし」を盛り込んだ柔軟な制度設計を実現しました。
**③キャッシュアウトのない報酬設計**
SOの特徴として、「従業員に報酬を与えつつ現金の流出を伴わない」という点があります。estieではこの特徴を活用し、現金報酬に加えたインセンティブとして活用することで、人材確保とエンゲージメント向上を両立しています。
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## 4\. 実務者へのメッセージ:SO設計で失敗しないためのチェックポイント
- **資本政策と整合性を取る**
SO付与により発行株式が増加するため、既存株主の取り分が希薄化する影響を考慮します。
- **税務と会計の整合性を確認する**
1円SO導入時には、税制適格要件を確実に満たすための設計と、費用計上に伴う財務影響の検討が不可欠です。
- **従業員とのコミュニケーションを重視する**
SOの価値やメリットを正しく伝えることで、従業員が制度を理解し、モチベーションにつなげることが重要です。
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## さいごに
改正特措法により、スタートアップにおけるSO設計の可能性は広がりました。しかし、その一方で、会計・税務の複雑性が増すことも事実です。今回紹介したestieの事例や、参考記事で挙げられた実務課題を踏まえ、慎重かつ柔軟な設計を目指しましょう。
1円SOを通じて、スタートアップの成長と人材へのインセンティブが最大化される未来を期待しています!
## 参考